偏にきみと白い春
思わずペコリと頭を下げる。
さっき一緒にいたのに、いざ2人きりになると困る。人と関わることをやめていた私には、どうしていいかわからない。
ああ、そうか。さっきまでは領がフォローしてくれてたんだって、今更気づく。
「疲れたというか、こういうことに慣れてないから……。あ、でも、今日はありがとうございました。すごく楽しかったです……」
とりあえず、そんなことを言ってみる。ぎこちないけれど、きちんと笑えたと思う。作り笑いは得意なはず。それなのに、コウヘイくんは私を見て目を丸くして、そして小さく笑った。
表情をあまり変えないのに、笑ってくれたことが少しだけ嬉しい。
「なんで敬語? 変わってるね」
「いや、だって……」
「綾乃って、確か学年1位だったよね」
「え、なんでそれを」
「同じ学年なんだから、それくらい知ってる。バンドとか興味あるの?」
「……領に誘われて」
「俺と一緒だね」
「え?」
「ていうか、これから仲間になるんだし、そんなよそよそしくしてたらやっていけないよ。 今日からは友達だとおもって」
「とも、だち、」
「うん、仲間。 俺のことは、コウヘイって呼んでくれればいいよ」
真っ直ぐ射貫くように、でも優しく私の目を見てコウヘイくんは手を差し出した。無表情だけれど、言葉からも視線からも好意的な気持ちがきちんと伝わってくる。
私のこと、迎え入れてくれてるんだ。
〝友達 〟、〝仲間〟。聞きなれないフレーズになんだか戸惑うけれど、それと同時に、言葉には表せないほど心臓があたたかくなっているのを感じる。
私はゆっくりと、差し出されたコウヘイの手を握った。