偏にきみと白い春
「えーと、じゃあこれ、……〝What a wonderful world〟」
私が選んだのは、英語と音楽の授業で習った、ルイ・アームストロングの名曲だ。最近のロックバンドやJ-popに疎い私にはちょうどいい。一度は誰だって聞いたことがあるだろう。タイトルの和訳は『この素晴らしき世界』。
「綾乃渋いなー。でもわかる、これはいい」
領が嬉しそうに、部屋の片隅に置かれたギターケースから自分のギターを取り出した。「ジャズっぽいのは得意分野じゃないけど、俺も結構好きだよ」って付け足して。
そして、ピックで弦を軽くなぞる。その瞬間、頭に曲が浮かんだ。たった一音弾いただけなのに。
「すごい……」
「確かこのコードだったよなー。綾乃の声ならもう少しキーあげて……」
原曲よりも高いキー。確かに女の子には歌いにくい高さだ。わざと歌いやすいようにあげてくれている。すごい。
「よしよし、じゃあいくよ」
領がいきなりイントロを弾き始める。ゆったりとしたメロディと情緒ある強弱。ギターソロなのに曲の特徴をよくつかんでる。領って実はすごいギタリストなのかもしれない。
私は領の隣に座って、大きく息を吸い込んだ。
英語の発音はたぶんカンペキだと思う。伊達に学年1位をやってない。