偏にきみと白い春
「わたしもね、」
ぐっと、喉元に力を入れる。自分自身のことを話すこと。人に内側をさらけ出すこと。
周りの人が当たり前にしていることが、時々、自分にはひどく難しいことだと感じる。だからこそ、何倍も、何十倍も、努力して手に入れてきた。
けれどきっと、当たり前のように見えているだけで、本当はみんな私のように、内側に何かを抱えているのかもしれない。葛藤して、躓いて、何度も立ち上がっているのかもしれない。
「中学受験も、高校受験も失敗して……親とはほとんどうまくいってない。もう諦められてるっていうか、1位を取ること以外、気にもしてもらえてないと思う」
「……」
「勉強して、勉強して、成績1位をとること。それだけが、生きてる意味だって思ってた」
浩平の方は見ない。
領にこの話をしたとき。空が綺麗だと知った授業中の屋上で、私はどんな風に彼に話をしたっけ?
あのときはまだ、こんな風に、勉強以外のことに夢中になったり、人と一緒に努力したり、何気ないことで笑い合ったり、そういう日常を知らなかった。何もわかっていなかった。
だけどね、今は違う。
「だけど、領や浩平や怜に出会って、こうして歌を歌うことの楽しさを知って、……私の毎日、今ね、信じられないくらい、輝いてる」
「輝いてる、か」
「大袈裟だって思うかもしれないけど、本当にそう思うの」
「……わかるよ、俺も、領に誘われてドラムを始めたから」
「え、そうなの?」
「うん、手先が器用だって、中学生の時だけど」
そういえば、領と浩平は同じ中学なんだったっけ。私のことをスカウトしてきたときのように、きっと必死で誘ったんだろうなあ。想像できる。