素直になりたい。
「いやぁ、直ちゃんが居てくれてほんと助かる。ありがとね」

「いえ。お店のオープンは私の夢でもあったので。バイトを続けて3年目の悲願です」

「ははは!ほんと直ちゃんは良い子なんだから!ははは!」


――バシンっ!


強烈なアタックをお見舞いされたが、ニヤニヤしてごまかす。

この方は私のバイト先の先輩で、わけあって高1の夏から私の同居人になってくださっている遠野祐希さん。

わけあってという"わけ"は私にあって。

私は絶賛家出中なのである。

もともとは学校の寮に住んでいたのだけれど、それが両親にばれ、家に呼び戻されると恐れた私は寮を出た。

行き場を失った私は数日間公園の遊具の中で過ごしていたのだけれど、さすがにまずいと思い、遠野さんに一緒に住んでほしいと頼み込んだ。

本当に優しくて気さくな遠野さんは1つ返事でオーケーしてくれた。

まさに女神である。

遠野さん以上に私に優しい人を私は知らない。


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