昨日までを愛せますように。
私はストレスの吐き口になれば良いな、と思ったから煙草を持参するようにしていただけで、特別吸いたいとか、そう言う訳ではないのだ。

案の定、煙草は身体に合わず、まだ一本しか吸っておらず、ただの残り物と化していた。

隣に座っている男は、吸い終わると今度は席を立った。

「……じゃあ、俺は帰ります。アンタは帰らないの?」

「帰っても、一人だから……。どこに居ても同じだよ?」

「そう?じゃ、お先に。……ちなみに、ソコ、アンタが座ってる席は、俺の特等席だから……今度は空けといて?」

特等席?

いつも立ち寄っているのかな?

一人で?

「いつも来てるの?」

「いつもじゃない……たまにね。……じゃあね?」

「……うん、じゃあね」

見ず知らずの男と30分は一緒に居ただろうか?

無愛想で冷たい言い方しか出来ない男。

……でも、何だろう?

あの男にも影がある気がする。

私と同じで、何かを背負っている感じがする。

もう二度と会わないと思うけれど、今度会えたら、名前を聞いてみようかな─────……
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