昨日までを愛せますように。
仕事が休みで目的もなく、ブラブラと街を歩いていると、擦れ違い様に名前を呼ばれた。

気付かない振りをして通り過ぎようとした時、腕を強い力で握られる。

「か……な……?」

あの男は弱々しい声でもう一度、私の名前を呼んだ。

もうすぐ赤になりかけている交差点の真ん中で、立ち往生してしまう。

言葉に出さずに手を振りほどこうとするが、男の力には、なかなか敵わない。

「香奈(かな)……話があるんだ。少しだけでも……話を聞いてくれないか?」

「分かった……分かったから、手を離して!」

そう言うと男はすぐ様、手を離した。

自由になった腕には、痛みがある。


ズキン……

ズキン………


嫌な記憶が頭の中を駆け巡る中、そそくさと歩道まで走った。

その後ろを、あの男が追って来ている。

気持ちが悪い……。

逃げたい……。
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