キミから「好き」と、聞けますように。

「温森……。その本って……」



ゴールデンウィークが終わった頃、教室に入った俺は温森が持っていた本を見て、固まってしまった。



「あっ、気づいた?」



温森が自分の席で読んでいたのは、俺が話した映画の原作となった本だった。



「こないだ、東條くんが誘ってくれた映画の本の方を買って、どんな話か知ろうと思ったんだ」



温森はそう言った後に、えへへ、と可愛らしく笑った。



「そ、そうか……」



俺が勧めた映画、全く興味がなかったわけじゃなかったんだな。



「今ね、主人公と彼女がこういうことをしているところまで読んだよ」



温森はそう言いながら、俺に本のページを見せる。



「ああ、このシーンか!」



俺は思わず、温森が手にしている本に食いついた。



「おわっ!!」



「あいたっ」



……俺が食いついたりしたのがバカだった。


俺が視線を戻そうと思った拍子に、自分の頭と温森の頭がぶつかってしまったのだ。



「わ、わりぃ。大丈夫、だったか?」



温森の太くて長いまつ毛が縁取られた、二重まぶたの目。そして、薄いピンク色の唇。

温森の顔のパーツがどれもひとつひとつ、かなり近く感じてしまい、俺はなぜだか心臓の音がバクバクとすごくうるさくなった。



「う、うん……。大丈夫……!」



温森は、あの時と同じだった。

カラオケの時と同じくらい、顔が赤かった。




< 60 / 183 >

この作品をシェア

pagetop