異常な君は、異常なモノが分からない

「……私も、君と、同じように思ってた」
「……え?」
「……君は、優しくて、それに責任感も強くて……だから、母のお葬式の日に言った私の言葉を無下に出来ないんだろうな、って」
「そんなこと、ありえない」
「……うん、さっき、君が話してくれたから、違ったんだって分かったよ。でも、君が話してくれる寸前までは本気でそう思ってた」
「っ、ごめん、僕、全然、気付かなくて」
「そんな、私の方が、」

 僕が、私が。そんなやり取りをしていて、不意に合わさった視線。数秒の沈黙が訪れて、どちらかともなく小さくふき出した。
 くすくす。ははは。笑ったのはいつぶりだろうか。思い出すことも出来ないくらい前だった気がするけれど、今日でその期間は更新されてしまったから、もう、どうでもいい。

「……っはぁ、久々に笑った。苦し」
「ふふっ。私も、久しぶりに、笑った」

 何とか呼吸を整え、彼を見る。すると彼も私を見て、その()がふわりと柔く弧を描いた。

「僕は君が好き……ううん、違うな。愛してる」
「……っ、わ、たしも、君を、愛して、る」

 するり、記憶の中にあるものよりも骨張った大きな手が頬を撫でる。

「君の、そばにいたい。いさせてくれる?」
「私も、君のそばにいたい。君に、そばにいて、欲しい」

 じわりと滲み始めた視界の中で、「もう、離さないからね」と彼は口角をあげてうっそりと微笑んだ。


 異常な私 ー終ー
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