契約結婚ですが、極上パイロットの溺愛が始まりました


 開けてもらった助手席に乗り込みながら、落ち着きなく鼓動が高鳴っていることに今更気付く。

 七央さんは運転席に乗り込むと、特に何も言うことなく車を発進させた。


「あの……七央さん」


 空港を出て公道を走り出した車は徐々に加速していく。

 続いていた沈黙を破った私に、七央さんは一瞬だけちらりと視線を寄越した。


「なんか、色々とすみません。気を使わせてしまって」

「気を使う? なんのことだ」

「本当は、甘くしないんですよね? アイスティー」


 思い出してついくすっと笑ってしまう。

 あの時からずっと、このことが頭を占領して離れない。


「あの時、私が気まずくならないように配慮してくれたってわかったので」

「別に、そういうつもりじゃない」


 冷めた口調で否定されても、自然と出た七央さんの優しさに触れたのは確かなこと。

 小さく首を横に振る。


「やっぱり、優しいです。七央さんは」


 再び落ちた沈黙の中、七央さんはため息に似た息をつく。

 そして、否定するように「優しくなんかない」と、抑揚のない声が言った。

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