拝啓、あしながおじさん。
「でね、純也さんと電話でちょっとお話できたんだ♪」

「へえ、よかったじゃん。……で? 愛美はますます彼のこと好きになっちゃったんだ?」

「……………………うん」

 さやかにからかわれた愛美は、長~い沈黙のあとに頷いて顔を真っ赤に染めた。思いっきり図星だったからである。

(ヤバい! また顔に出ちゃってるよ、わたし! もうホントにスルースキルが欲しいよ……)

 純也さんとは電話で話しただけだったけれど、あの時でさえ胸の高鳴りを(おさ)えられなかった。もしも本人と対面して話していたら……と思うと、何だか怖くなる。

 ちなみに、あの家の屋根裏で見つけた本は、そのままもらってきた。「愛美ちゃんが気に入ったなら、持ってっていいわよ」と多恵さんが言ってくれたからである。

「――あ、ねえねえ。このノートなに?」

 荷解きを手伝い始めたさやかが、愛美のスポーツバッグから一冊のノートを取り上げた。

「ああ、それ? 小説のネタ帳っていうか、メモっていうか。これから小説書くときに参考になりそうなこと、色々と書き()めてきたの」

「小説? 愛美、小説書くの?」

 さやかが小首を傾げる。

(……あ、そういえばさやかちゃんにも珠莉ちゃんにも、まだ話してなかったっけ。わたしが小説家目指してること)

 入学してそろそろ五ヶ月になるのに、自分の大事な夢をまだ友達に話していなかったのだ。

「うん。実はわたし、小説家になりたくて。中学時代も文芸部に入っててね、三年生の時は部長もやってたんだよ」

「へえ、そうなんだ? スゴイじゃん! 頑張って! 愛美の書く小説、あたしも読んでみたいなー」

 夢とかいうとバカにされるこのご時世に、さやかはバカにすることなく、素直に応援してくれた。

「うん! いつか読ませてあげるよ。わたし、頑張るね!」  
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