ビニール傘を差し出したら、結婚を申し込まれました。
Chapter4☂︎*̣̩・゚。・゚
◇◆◇


 帰りたくない。

 今日最後の講義を終えた私は、重い足取りで教室を出た。

 昨夜気持ちを落ち着けるためにゆっくりお風呂につかった後、そのまま部屋にこもり、今朝もハルさんとは顔をあわせないまま大学に来た。

 顔を合わせるのは気まずく、本気であのマンションに戻るのが嫌だ。

 しかし今日はバイトもなく、サークルもやっていなければ一緒に買い物へ行くような友達もいない私には帰る選択肢しかない。

 誰かに一晩泊めてもらえないだろうか……なんて一瞬考えて、だからそんな友達いないんだと自嘲気味に笑う。

 あ、でも長谷なら……。さすがに男の家に泊めてもらうというのは色々と問題があるだろうが、しばらく一緒に時間をつぶすくらいなら付き合ってくれるだろう。
 そう思いスマホを取り出すが、昨日彼から告白をされたことを思い出し、打ちかけたメッセージを消去した。

 どうしよう。選択肢としては、諦めて大人しく帰る、一人で時間を潰せる場所を探す、今日は一人でホテルかどこかに泊まる。ホテルに泊まるのは高くつくからできれば避けたい。とはいえ時間を潰すのだって、結局問題を先延ばしにするだけなのだが。

 私はため息をつきながらぼんやりと歩く。ぼんやりしていたせいで、気づけば駅を越えて元々住んでいたアパートのあたりまで来ていた。ついこの間までここに住んでいたのに、既に懐かしい気がする。ハルさんと同居を始めてからの日々があまりに濃くてそんな気がしてしまうのだろう。

 そんなことを思いながら駅へ引き返そうとしたとき、近くから声を掛けられた。


「おや、直島さん。久しぶりだね。今日はこっちに戻ってきたのかい?」


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