みやとロウ。
境目まで送ってくれたロウと別れて、帰路につく

いつもの立ち入り禁止の札が見えてきた所で、『それ』に気付いた


「あ」


横からふよふよと現れて
私と同じように札の方に向かって浮遊する、くすんだ灰色の綿毛のようなもの


「近くで久しぶりに見た」


距離を保ちながら、じーっと観察


ふよふよ
あてどなくさ迷うように行ったり来たりしてる


「…」


…人は、死んでも尚
迷ってしまう生き物なんだって

色んな感情を持つ生き物なんだって


ここに来て初めて知った



それと



「触っちゃだめだよ」



気付いたら
綿毛に…『曲霊』に近付いてしまっていた私の手を取って

そう声をかけてきたのは



「塞ノ神さま」



そのひとだった



「みやは本当に危なっかしいね」

「…ごめんなさい」

「怒ってないよ」


塞ノ神さまは私に笑いかけて
それから曲霊に向き直る



「ずっと僕を探してたんだね」


「――」


「うん」


「―――」


「うん。大丈夫
ちゃんと辿り着けるよ」



曲霊と会話しながら

塞ノ神さまは
またどこからか『送り火』を取り出して

丸い提灯の形をした『それ』を曲霊に向ける



しゃんしゃんしゃん



提灯の中から綺麗な鈴の音



「いってらっしゃい」



塞ノ神さまの優しい声



「―――」



応えるように音を返して、曲霊はふっと姿を消した




「……」



死んでも尚、迷って
制御できない感情に苛まれて

行きたい場所に行けない魂(ひと)がいるってことを


ここに来て初めて知った



そして




「みや、途中まで送るよ」



それを救ってくれる存在がいるってことも



「…」



差し出された手を取って頷く



あったかい大きな手




塞ノ神さまと初めて会った日を思い出した
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