夏空、蝶々結び。


・・・



「ゴン」

「ん? 」


幽霊との喧嘩ほど、空しいものはないかもしれない。
殴ろうにも殴れないし、何かを投げつけようにも当たるはずもない。
結局、私が疲れ果て、時間もないのでそのまま朝ご飯になった。


「……あんた、いつまで名無しでいるつもり? 」


さりげなく話を振ったつもりなのに、顔は上げられない。
ふと見ると、お皿の上の目玉焼きは意味もなくフォークの穴だらけになっていた。

それにゴンが気がつかないなんてあり得ない。
でも、少しの沈黙だけで分かる。

――多分、はぐらかしてくるってこと。


「……何言ってんの。俺にはかなえちゃんが愛情を込めてつけてくれた、可愛い名前があるでしょ」


嫌味な言い方も、若干遅い気がする。


「……やっぱり、それも不便かなって。その……あんたの手伝いするには」


あの時は、知らなくてもいいやと思っていた。
第一、本人が語りたがらないのだから仕方ない。でも――……。


「……情が移った? 」


そんな考えを読んだかのように、ゴンが唇の端を持ち上げた。
彼の唇は、ゾクリとするほど綺麗な弧を描き――冷たく、はっきりとした嫌悪を表していた。

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