夏空、蝶々結び。

何と答えていいか分からず、モゴモゴしてしまう。
だって、あげたいのは山々だけれど。


「腹が減ってる訳でも、本当に食える訳でもないけど。……俺にもくれたっていいだろ」

「……うん」


(……そう、だよね)


お腹は空かないし、実際口にできるのでもない。
それでも毎日、毎食食べる私の側で見ているだけだなんて。


「別に、あんたが落ち込む必要ないんだけど。……じゃなくて、一緒に食ってやるって言ってんの。一人で平らげるの、見るに堪えないから」


ゴンはいつだって偉そうだ。でも――。


「かなえちゃんが渡してくれればいい。だから……俺にもちょーだい」


何故か隠そうとする優しさを見つけるのは、いつしか大分簡単になった。


「あ……コーヒー淹れるね! 」


胃がきゅっと締めつけられ、痛い。
私ですらそうなのだから、ゴン自身はもっと複雑で辛いのだろう。
そう思うと、居ても立ってもいられなかった。


「いいよ、一緒ので」


動揺されるのが嫌なのか、不機嫌そうにぞんざいに指差す。
その先には、私がいつも使っているマグカップ。


「え? で、でも……」

「いいって。だから、本当に飲める訳じゃねぇし。なに妄想してんの」


そう言われても、やっぱり戸惑ってしまう。
――同じカップを渡すのを。


「あんた、どんだけ免疫ないんだよ」


お湯が沸く時間も、コーヒーの粉に注がれて湯気が昇るのも、どうして待っていいか分からずにそわそわする。

マグカップがふわふわ浮いた。
びっくりしている間に、ゴンは唇をつけてニヤリと笑う。


「前々から思ってたんだけどさ。一体、いつが最後なわけ? 」


平然とコーヒーを飲みながら、失礼な質問を飛ばす。


「か、関係ないでしょ、そんなの!! 」


ムッとはしたものの、それ以上言い返すことができなかった。
だって――落とさないようにゆっくり返ってきたカップの中は、想像通り、ちっとも減ってはいないから。


「……うまかったよ。あんまり甘くなくて」


なのに、そんなことを言うから。
目の奥がツンとするのを誤魔化すように、私もカップに口づけるのだ。

< 39 / 114 >

この作品をシェア

pagetop