ハージェント家の天使
 国の存亡の危機に瀕した際や、モニカが事件や事故など、命の危機に巻き込まれた際に助けられるように、ヴィオーラや王族達は把握して起きたいらしい。

「今、この国にはモニカさん以外に『天使』はおりません。何かあれば、モニカさんが危機に晒されるかもしれません」
 モニカは深く頷いた。
「分かりました。では、私自身も気をつけます。あの、どうして、お姉様はこの話をご存知なんですか? やはり、侯爵家だからですか?」
 モニカが訊ねると、ヴィオーラは頷いたのだった。
「それもありますが……。我がブーゲンビリア家は過去に一度、『天使』を迎え入れた事があります」
 モニカとリュドは驚いたが、それよりも驚いたのはマキウスであった。
「そんな話、私は知りませんよ。姉上……」
「そうですね。私も知ったのは、母が死んだ直後です。母が管理していた父の遺品を整理していたところ、『天使』に関する記録を見つけました」

 本来であれば、「天使」の情報は、親から子へと内密に伝えられる。
 けれども、姉弟の父親は2人が子供の頃に若くして急死したので、それを伝えられなかったのだと、ヴィオーラは考えたのだった。

「それに、マキウス。貴方は会った事はありませんが、私は我が家が迎え入れた『天使』に会った事があります」
「それは……」
「大叔母様です。お祖父様の弟である大叔父様が迎え入れた花嫁です」
「お祖父様の弟ーー確か、オルタンシア侯爵家に養子に出された?」
「そうですね。今はもうありませんが……。オルタンシア侯爵家の最後の当主こそが、我が家で迎え入れた『天使』でした」
 モニカとリュドが話についていけなくて、困惑して顔を見合わせていると、ヴィオーラは説明してくれたのだった。

 姉弟の祖父の弟である大叔父は、花嫁を娶った事を機に、ブーゲンビリア侯爵家と懇意であったオルタンシア侯爵家に養子に入った。
 オルタンシア侯爵家には跡継ぎがおらず、また大叔父自身も、次男である以上、このままブーゲンビリア侯爵家にいても家督を継げる可能性が無かった。
 それならばと、大叔父は家督を継げるオルタンシア侯爵家に養子に入り、そこで花嫁を迎え入れた。
 その花嫁こそが、「天使」だった。

「大叔父様は私が生まれる前に他界されましたが、『天使』であった大叔母様はまだ生きていました。
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