ハージェント家の天使
 そうは言いつつも、リュドは薄っすらと顔を赤くしていたのだった。
「私は今日のマキウス殿の返答次第では、モニカとニコラを連れて、国を出るつもりでした」
「リュド殿……」
「けれども、今の言葉で、私は迷ってもいます。貴方になら、妹を託してもいいのではないかと」

 この部屋に入ってきたモニカは、嬉しそうにマキウスに向かって微笑んでいた。
 そんな2人を引き離す事が、リュドは酷に思えてきたのだった。
「私はもうしばらく、この国に滞在します。ヴィオーラ殿を通して、滞在の延長を申請しています。近日中に許可が下りるでしょう」

 リュドの様に、他国からこの国に滞在する際には、予め滞在を希望する日数を申告する。
 ただし、事情があれば、滞在の延長を希望する事も可能であった。
 その際は、滞在中の身元保証人を通して申請をする事になっていたのだった。

「まだ、マキウス殿を許すかどうか決めていません。だから、もう少しだけ見守らせて下さい。その上で、決めさせて欲しい」
 マキウスは頷いた。
「ええ。勿論です。必ずやリュド殿に許しを得られるように、モニカとニコラを幸せにします」
 胸に手を当てて、マキウスは誓った。
 そんなマキウスを、リュドは眩しそうに目を細めたのだった。
「……妹を大切に想っているんですね」
「想っているなどと……。私はモニカを愛しているんです。ニコラもモニカと同じくらいに。あの2人を守れるのならば、私は何を捨てても構いません。爵位も、仕事も、財産も、これまで積み重ねてきた何もかも」

 あのバルコニーでモニカに口づけされた時に、マキウスは確信した。
 やはり、自分はモニカを愛しているのだと。
 モニカの為なら、自分はどうなっても構わないと思うくらいにーー。

「モニカは、幸せになろうと言ってくれました。幸せは2人で作るもの、夫婦2人で、と。そこまで愛する女性に言わせて、男の私が何もしないわけにはいきません」
「マキウス殿……」
「モニカの気持ちに答えられるように、私も力を尽くします。いつまでも、モニカとニコラの笑顔を守れるように……」
 マキウスの脳裏には、愛する妻と娘の笑顔が浮かんでいた。
 2人の笑顔を守りたい。大切な家族を。
 マキウスはそっと微笑んだのだった。

「お姉様! 待って下さい!」
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