ハージェント家の天使
 モニカがベットに座ると、マキウスはモニカの向かいに跪いたのだった。
「モニカ、指輪をした手をこちらに」
「はい」
 モニカが手を差し出すと、マキウスはその手を取った。
「お手を拝借します。肩の力を抜いて下さい」
「えっ?」
「そのまま。動かないで」
 モニカが戸惑っている間に、マキウスは指輪に顔を近づけると口づけたのだった。

「わっ!?」
 モニカは驚いて手を引っ込めそうになったが、マキウスから「動かないで」と言われたのを思い出して、そのままじっと固まる。
 目を閉じているマキウスの長い睫毛、微かに手にかかるマキウスの髪。
 モニカの胸は激しく高鳴っていたのだった。
 時間が非常に長く感じられた。時が止まったようでもあった。
 ようやくマキウスが顔を離した時には、モニカの顔は火照っていたのだった。

「マキウス様、これは……!?」
「魔法石に私を認識させていました」
「隊長から聞いていませんか?」とマキウスが不思議そうな顔で訊ねてきたので、モニカは何度も頷いたのだった。
「隊長……」と、マキウスはため息をついたのだった。
「モニカ、指輪を見て下さい」
「あっ! 石が光っています!」
 指輪にはまった青色の石は、小さな青色の光を放っていたのだった。
「この光は、私の魔力を認識した証になります。これで、この指輪は私を持ち主と認めました」

 マキウスによると、魔法石は最初に魔力を入れた者を自分の持ち主と認める。
 それにより、最初に魔力を入れた者が死なない限り、持ち主以外の魔力を受け付けなくなるらしい。
 指輪を持っている人は、その持ち主の代理人として、その指輪に宿っている魔力を自分の魔力の様に使えるようになる。
 また、最初に魔力を入れる方法は、持ち主の体液なら何でもいいらしい。

「魔法石に宿る魔力には限りがあります。屋敷内の魔法の鍵を開閉すれば、当然、魔法石に宿る魔力は減ります」
「へぇ〜。魔力は有限なんですね」
「ええ。ですから、今後も私が毎日、魔力を補充しに来ます」
「ああ! 要は充電式って事なんですね!」
「じゅうでんしき?」と、マキウスが首を傾げたので、モニカは「なんでもないです」と首を振ったのだった。

 魔法石に宿っている魔力はマキウスのものなので、屋敷内の魔法の鍵はこの魔力で、ひと通り開閉する事が出来るとの事だった。
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