ハージェント家の天使
「ヴィオーラ様は、身分や階級と関係なくマキウス様と子供の頃のような関係に戻りたいと仰っていました。マキウス様はどう思っているんですか?」
 マキウスは眉間に皺を寄せた。
「どうとは。隊長も私も、もう大人です。お互いに守るべきものがあります。子供の頃のような関係は難しいでしょう」
「でも、マキウス様とヴィオーラ様は姉弟ですよね?」
 間髪入れずに続けたモニカの言葉に、マキウスは視線を逸らした。
「お互いにご両親を亡くされている以上、お互いが唯一の家族ですよね。立場もあるとは思いますが、ヴィオーラ様の事は気にならないんですか?」
「……気になりません。隊長の元には、共に幼少期を過ごしてきたアガタや、アマンテとアガタの父親もいます。私が気にする必要はありません」
 首を振るマキウスに、モニカはため息をついたのだった。

「……本当にそう思っているんですか?」

「どういう事でしょうか?」
 モニカの言葉に、マキウスは険しい目つきになった。
「マキウス様はヴィオーラ様の話をする時だけ、いつも意地を張っているような気がします。自分の立場を言い訳にしているだけで、本当はヴィオーラ様の事が心配じゃないんですか?」
「意地など、私は……」
「ヴィオーラ様の話をすると、すぐに話題を変えようとしますよね。触れたくないというように。本当は、マキウス様も気にされていますよね。ヴィオーラ様のーーお姉さんの事が」

 確実な根拠があるわけではない。
 ただ、モニカがマキウスを観察していて、ヴィオーラに関する話をする時だけ、マキウスの様子がおかしくなるから、言ってみたのだった。
 眉間に皺を寄せて、黙ってしまったマキウスにモニカは優しく声を掛けた。
「マキウス様、ヴィオーラ様とちゃんと話しをしてみませんか?」
「ですが、私は……」
「マキウス様」
 モニカはマキウスの顔を覗きながら訊ねた。
「ヴィオーラ様はお嫌いですか?」
 マキウスは暫し逡巡した後に、首を振ったのだった。
「それなら、マキウス様の気持ちをヴィオーラ様に伝えてみましょう。機会は私が作ります」
 マキウスは俯いたまま、「ですが」と呟いた。
「隊長と……。姉上と、何を話したらいいのか、私にはわかりません……」
「なんでもいいんです」
 モニカの言葉に、マキウスは顔を上げた。

「些細な事でいいんです。ヴィオーラ様の事が心配だと言うだけでいいんです。マキウス様の言葉でお話しすれば。 ……全てを失ってからでは遅いですから」
 モニカのーー厳密に言えば御國の、事情を思い出したマキウスは、ハッとした顔をした。
 死んでしまった以上、モニカが元の世界にいる家族に会う事は叶わない。
 そんなモニカの身からすれば、マキウスとヴィオーラは羨ましくもある。
 取り返しがつかなくなる前に、まだ2人には話す機会があるのだから。
 モニカはマキウスに身体を寄せると、寄りかかった。
「大丈夫です。私が傍についています。それに、マキウス様なら大丈夫だと信じています」
「だって」とモニカは呟いた。
「……私を信じてくれた貴方を、今度は私が信じます」
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