ハージェント家の天使
「はい。どうぞ」
「あ、ありがとうございます」
 ヴィオーラが差し出した洗濯物を、ティカは恐る恐る受け取ると、一礼して去って行ったのだった。

「ありがとうございます。ヴィオーラ様」
「これくらい、子供の頃に散々やっていましたからね。慣れています」
「そうなんですか? それは意外です」
「これでも子供の頃は、女らしからぬ事を数え切れないくらいやって、よくペルラに怒られていたものです」
「ところで」とヴィオーラは話題を変えた。
「ニコラさんは大丈夫でしたか?」
 ヴィオーラに顔を覗き込まれて、モニカは「はい」と頷いた。
「オムツ替えをした際に熱を計りましたが、いつもより体温が高かったので、念の為に休ませています。アマンテさんがニコラを見ててくれるそうなので、そのままお願いしてきました」
「それは、心配ですね……」
 眉を寄せるヴィオーラに、モニカは苦笑した。
「赤ちゃんは体調を崩しやすいので、仕方がないと思います」
「そうですか? それだけなら良いのですが……」

「ああ、それよりも」
 ヴィオーラは、モニカに手を伸ばした。
 モニカが反射的に首を竦めると、ヴィオーラはモニカの頭に触れたのだった。
「私が木に登った衝撃で、木の葉が何枚か落ちてしまったようです。モニカさんの頭にもついてしまって……」
 モニカが恐る恐る目を開けると、間近にヴィオーラの顔があった。
 マキウスに似た端整な顔立ちに、モニカは耳まで真っ赤になりながらも、ヴィオーラにされるがままになっていたのだった。

「これで良し、と。一通り取れたと思います」
「あ、ありがとうございます。ヴィオーラ様」
「礼には及びません。可愛い義妹《いもうと》に恥ずかしい思いはさせられませんからね」
 優しく微笑むヴィオーラに、モニカの胸はキュンと高鳴った。
「あの……!」
 モニカは胸の前でギュッと両手を握った。

「お姉様って、お呼びしてもいいですか?」

 ヴィオーラは目を丸くした。
「それは構いませんが……?」
 モニカは目を輝かせた。
「ありがとうございます! お姉様!」
「わっ!?」
 そして、モニカはヴィオーラに抱きついたのだった。
「も、モニカさん……?」
「お姉様、カッコ良かったです!」
「そうでしたか……?」
「はい!」とモニカは元気に返すと、ヴィオーラに抱きついたのだった。
「……他の女性騎士に言われた事はありますが、身内に言われたのは始めてです」
 弟ではなく、義妹《いもうと》に言われるのも。

 心配したマキウスが様子を見にやってくるまで、モニカはヴィオーラに抱きついていたのだった。

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