ハージェント家の天使
「明日も晴れます」
「そうですね。この世界の天気予報は、絶対当たりますから」

 この世界に来て、しばらくしてから空が丸い事にモニカは気付いた。
 昼は人工の太陽が昇り、時には雨が降った。
 夜になるとプラネタリウムの様に、ドーム型の丸い空に星が輝いていた。
 それを不思議に思っていたが、マキウスからこの国について教えてもらって、モニカはようやく納得がいったのだった。
 この国は空に浮かんでおり、天気は全て管理をされていた。
 国民は予め月々の天気を知らされており、その天気に合わせて仕事や活動が出来る。
 雨天決行や中止といった事は絶対無いのだ。

「貴方がいたところでは、天気はわからないのですか?」
「そうですね。天気予報はありましたが、必ず当たる訳ではなかったです」
 モニカは空を指差した。
「風が吹けば海から雲が流れてきます。雲の中には雨雲がありました。時には台風だってやってきます」
「貴方の国は広い領土を持っているのですね」
「私の国はさほど広い国ではありません。他の国の近くで生まれた台風が国にやってくるんです」
 モニカは自分がいた世界での天気について説明した。マキウスは興味深く聞いていたのだった。

「この国ではあり得ません。ガランツスではあるらしいですが」
 マキウスはゆっくりと首を振った。
「では、私の国はガランツスと似ているのかもしれませんね。私の世界は空は丸くなかったので」
 モニカの言葉に、マキウスは何度も瞬きをしたのだった。
「……空は丸くないのですか?」
「はい。そうですよ」
 マキウスは考え込んでいるようだった。

「……昔、まだ侯爵家に住んでいた頃に、そんな本を読んだ気がします。姉上と一緒に」
 マキウスがまだブーゲンビリア家に住んでいた頃、ヴィオーラと一緒にガランツスに関する子供向けの本を読んだ事があった。
 そこに、ガランツスでは空は果てしなく続いていると書かれていたのを、マキウスは思い出したのだった。
「そうですよ。マキウス様はこの国から出た事は無いんですか?」
「ありません。この国から出るには、高い身分があるか、仕事で行くか。それくらいしかありません」

 お互いの国の安全を守る為に、今でもレコウユスとガランツスの出入りには、国の厳しい審査を通った者か、推薦を受けた者しか出来なかった。
 その為、国から出れるのは、王族に連なる者か侯爵の爵位を持つ者、それかその護衛でなければならなかった。
 マキウスの様に爵位は低く、まだまだ一騎士の身では叶いそうになかった。

「いつの日か、国を出て広い空を見たいものです」
「そうですね。その時は、私とニコラも一緒に行きたいです!」
 マキウスの身体に、モニカは身を寄せた。
「……妻子《私達》も連れて行ってくれますよね?」
 マキウスの顔を覗き込んだモニカに、マキウスは微笑んだ。
「ええ。勿論です。私がお連れしますよ」
 マキウスはモニカの肩を抱いたのだった。
 2人の頭上では、今日も星が瞬いていた。
 そんな2人の姿を、星空は優しく見守っていたのだった。
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