ハージェント家の天使
 下は黒色のタイツ、白色のリボンがついた紺色のパンプスを履いていた。
 肩からは茶色の肩掛けカバンを持っていた。
 どれも、御國だった頃に気に入っていた洋服だった。

「変な夢……」
 モニカは歩き出した。近くの携帯電話ショップの前を通る時、ガラスが反射して自分の姿が写った。
 御國だった頃の黒髪黒目の日本人にとってはありきたりな色。けれども、容姿はモニカのままだった。
 モニカの姿のまま、髪や目、服装は御國になっていたのだった。

 モニカが肩に掛けていた小さな肩掛け鞄を開けると、中には使い慣れた茶色の財布と、使い慣れたスマートフォンが入っていた。
 財布の中は御國が階段から落ちた時のままだった。
 残高もカード類もそのままになっていた。
 また、スマートフォンの電源は入っておらず、電池が無いのか、何度試しても電源は入らなかった。
 それ以外で目ぼしいものは、ハンカチやポケットティッシュ、化粧ポーチ、読みかけだった文庫くらいだった。

「あれは……」
 モニカが歩き続けると、目の前から20代くらいの若いカップルが歩いてきた。
 忘れもしないカップルだった。
 今風のファッションに、茶色に染めた髪を今風にアレンジした髪型。
 周りの通行人とは違い、一際目立つオシャレなカップルとモニカはすれ違った。

 すれ違い様に、モニカとカップルの女性の肩がぶつかった。
「いたっ!?」
 女性はモニカとぶつかったを手で押さえた。
「す、すみません……!」
 モニカは小声で謝ると、女性と女性を心配する男性の横をそのまま行き過ぎようとした。
 だが、背後から舌打ちが聞こえてきたのだった。

「なんなの!? アイツ!?」
「大丈夫か? あのブスが……」
 モニカの胸が強く痛んだ。
 咄嗟に鞄を漁るが、いつも持ち歩いている「アレ」が無い事にモニカは気づいて愕然とした。
 モニカは両手で耳を塞ぐと、怪訝な顔をする通行人の間を塗って走ったのだった。

 息が切れそうになる頃。
 そこで、モニカは目を覚ましたのだった。

「……ニカ様! モニカ様!」
 モニカは肩を揺すられて目を覚ました。
「大丈夫ですか? どこかお加減でも?」
 アマンテが心配そうに、モニカの顔を覗き込んでいた。
「だ、大丈夫です!」
「それならよろしいのですが……」
 アマンテは頬に片手を当てたのだった。

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