路地裏の唄
「律クンだよっ!」と抗議する県を気にせず椅子から立ち上がる音の後机の前まで来て縁に寄り掛かって腕を組む。




「火はいつでも出せんのか」

「はい。
多分…」




「出してみろ」と言われ右の人差し指を立て、天井を指差すような形にする。

律が指先に意識を集中すると、いとも簡単に火は灯った。


しばらくそれを眺めていた現樂が紙を一枚その炎にあてる。

炎は紙の表面を滑るだけだった。



「……なるほどな」




いつまでも燃え上がる事のない紙と炎を眺めて現樂が呟く。






「?…その炎、分子にしか効果がないの?」


不思議そうに呟く県に続くように隣の玖科が言う。


「ん…そういうこと、なの?」

「今のところ、そう考えとくか」



紙をくしゃりと握り潰しごみ箱へ放り込むと、無愛想な顔を律に向ける。






「話に乗る気は?」



律は一度原十郎を見る。
原十郎は"好きにしろ"と言う意味をこめて肩を竦めてみせる。
原十郎が何も言わないと言うことは悪いようにはされないだろう。

スクールを出た今、まだ職業は全く決まっていない。

特に断る理由もなかった。







「はい。
よろしくお願いします」
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