路地裏の唄

｢マスター、乃木 深梁さんから電話が｣

｢受けろ｣



現樂の短い許可を認識した途端、ノイズ混じりの騒音が書斎になだれ込み、その場にいた全員が思わずそちらに耳を傾けた。


｢深梁、今どこだ｣

『ん？あ！シャチョー？』

｢分子か？｣

明らかにただの雑音じゃない背景の騒音に現樂は焦る様子もなくしかし騒がしい最中にいる深梁に聞き取りやすそうなはっきりした調子で問い掛ける。


『だけならなんとでもなるんですけどっひゃわ！
ちょぉっ気ぃ付けてぇやぶつかるかと思ったわ!!』

『ぶつからなかったのだから喚くな！』


苣も一緒にいるらしく、電話の向こうでぎゃあぎゃあと口論を始めようとしているところに、現樂が冷め切った声で口を鋏んだ。


｢で？現在地｣

『せや！忘れるとこやったわ！もうすぐそっちに着きますわ』




疑問詞を感じる沈黙の中、通話が切れたのかふっと騒音が止んだ。
それと同時に通話状態から解放された緋奈咫がいつもの調子で淡々と口を開いた。



｢およそ20前後のアンインストール分子達が一体のツールを伴ってこちらに急速に接近しています｣