王女ちゃんの執事4『ほ・eye』王女さんの、ひとみ。
 舌打ちしつつ廊下を曲がったとたん、肩を小突かれて床に尻もち。
(わり)ぃ。あ、加藤か。無事か?」
 おれならなんだ。
 おれなら謝りもせず走り去っていいというのか、宮原。
 ラグビー部の元主将が走りながらぶつかってくれば、それはタックルだ。
「ちょっと。あんたって廊下に転がるのシュミなの?」
 無様に床に尻もちをついたなりで見上げると吾川がせせら笑っていた。
 手にした巨大なスケッチブックで口の前をおおい、さらに眉をしかめる。
「男子なんてみんなトイレに行った上履きで歩いてんだから、廊下は菌の温床よ。その手で公共物にさわるまえに、ちゃんと石鹸で洗いなさいよ」
「…………」
 もちろん無言で伸ばした手を吾川のスカートになすりつける。
「ぎゃああああああ」
 報復は硬いスケッチブックでのハリセンチョップ。
 バホッという打撃音と「ってぇぇぇ」というおれの怒号が廊下の壁に反響するなか、吾川は「やだ、ひらめいた」と鼻をひくひくさせてスカートのポケットからスマホを取り出した。
「ちょっと加藤。さっき宮原くんに押し倒されたポーズ再現してよ」
 スマホはすでに撮影モードでカシュカシュ鳴っている。
「誰が押し倒されたんじゃっ」
「あ。いいね。もっと怒って。視線、あたしの頭の20センチ上ね」
「…………」
 ジーザス。これはなんの罰ゲームですか?
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