拾われたパティシエールは愛に飢えた御曹司の無自覚な溺愛にお手上げです。

 人目も憚らず、創さんに言いたいだけ言い放つと、抱きついたままで泣きじゃくることしかできないでいる私のことをこれまでよりも強い力でぎゅぎゅうと掻き抱くようにして抱きしめてくれた創さんから。

「……わ、悪かった。悪かった、菜々子。俺も、俺も愛してる。もう絶対離したりしない」

 泣いているのか身体と声を微かに震わせながらも幾度も幾度も謝りつつ、私の名前と愛の言葉を噛みしめるように繰り返し贈ってもらえたから、伝えたかったことはちゃんと伝わっているはずだ。

 あれから数分後、ファーストクラスのラウンジのソファで、ここへ来るまでの経緯を話し終えた私は、隣の創さんと寄り添い合うようにしてゆったりと背中をもたげている。

 眼前の大きな窓の外には、綺麗に澄みわたる爽やかなスカイブルーの空が果てしなく広がっている様が見て取れる。

 まるでこれからの私たちの前途を祝福してくれているかのようだ。

 私は、その綺麗な蒼い空を見上げつつ、創さんとしっかりと手を繋ぎ合って寛ぎながら、創さんと病院で対面したあの日からこれまでのことを振り返っていた。

 その中でも、特に印象に残っているのは、やっぱり創さんのお母さんである愛梨さんとのことだ。

 さっきの車でのあれは夢だったんだろうか? ううん、そんなこと絶対にない。

 あれは、否、飛行機のことも、なにもかも全部、創さんのことを案じた愛梨さんが起こした奇跡だったに違いない。

ーー愛梨さん、ありがとうございました。創さんとめいっぱい幸せになってみせますから、私の両親と一緒に天国からずっとずっと見守っていてくださいね。

 愛おしい創さんの隣で、私は人知れずひっそりと、そう心のなかで呟いていたのだった。

 そこへ、どうしたことか、またまた意識にスーッと、成仏したはずの愛梨さんの声が割り込んできて。

【あらあらイチャイチャしちゃって。いいわねー若いって。羨ましーわ~】

「ーーええッ!? ど、どど、どうしたんですかッ?」

【あぁ、それがね。創がちゃんと幸せになれるかを見届けるまではヤッパリ成仏できないみたいなの。親って厄介なモノよね~? ってことで、これからもよろしくね。菜々子ちゃん】

 それをどうやらうっかり者の私は愛梨さんにテレパシーじゃなく大きな声でしっかりと答えていたようで。

「ん? 菜々子? どうした?」
「あっ、否、その、ちょっと考え事してたみたいです。ハハッ」
「へぇ、なら、菜々子の頭ん中、俺のことでいっぱいにしてやる」
「////ーーんんっ!?」
【キャッ!? 創ったら大胆ねぇ。この分だと孫なんてあっという間ねぇ。楽しみだわぁ。ふふっ】

 そんな私の奇行に不審がる創さんのことを誤魔化そうとしたのが、おかしな展開になって、たった今私は創さんから熱烈なキスをお見舞いされてしまっている。

 幸いなことに、窓の方を向いているのでそこまで人目にはついていないだろうと思う。

 けれども、幽霊である愛梨さんにはくっきりハッキリ見えているに違いない。

 私はこれ以上にないくらいの羞恥に悶ながら創さんの熱烈なキスに酔いしれていたのだった。

 どうやらロサンゼルスでの暮らしも、これまでと変わらず、とっても賑やかなものになりそうだ。



ーFinー

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