拾われたパティシエールは愛に飢えた御曹司の無自覚な溺愛にお手上げです。

 現在の時刻、午後五時五六分。

 確か、会食や急用がなければ、だいたい六時過ぎには帰宅するとか言ってたから、もうすぐだ。

 最新式のスチー厶オーブンレンジも小道具も材料も使ったことのないものばかりで、どうなるかと心配だったけれど、シフォンケーキの試作品もうまく焼き上がった。

 さすがは紅茶の女王と呼ばれるダージリン。

 しかも味・コク・香りともに一年で最も充実した時期に収穫された、最高級品とされるセカンドフラッシュだけあって、口に入れたときの香りがなんともいえない。

――よしッ! これならいける。

 気合い充分に二度目に焼き上がったシフォンケーキを冷ましてる間、ふっくらと泡立てたホイップクリームに桜のリキュールを加えて、無事完成。

 できたばかりのホイップクリームをひとさじ掬って口に含んでみる。

 すると、仄かな桜の香りが口の中でほわっと広がって、ほんのりと優しい甘さが包み込むようにしてあとから追いかけてくる。

――メチャクチャ美味しい!

 ほっぺが落ちるとはまさにこのことだ。

 さっきまで純白だったホイップクリームがほんのりと薄桃色に色づいていて、とっても綺麗で癒やされる。

 勿論純白のホイップクリームも一緒に添える予定だ。そして最後にアクセントとしてミントの葉も。

 味の変化が楽しむこともできるし、視覚的にも、味覚的にも、麗らかな春を思わせる、とびきりのシフォンケーキだ。
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