拾われたパティシエールは愛に飢えた御曹司の無自覚な溺愛にお手上げです。

 いつもは無愛想な桜小路さんの王子様のような優しい笑顔に、思わず魅入ってしまった私の胸が、何故かきゅんと切ない音を奏でた。

 おそらく、驚きすぎたせいだろう。けれどそれも一瞬のことだった。

 不躾に凝視したままでいた私の視線が不快だったのか、私の視線とかちあった途端、ハッとしてすぐにいつもの無愛想な表情に戻ってしまった桜小路さんから、

「いつまで突っ立っている気だ? さっさとしろ」

安定の無愛想で不遜な声音でお叱りを賜ってしまった私は、飛び上がるようにして足の上へと飛び乗っていた。

 桜小路さんの足の上でちょこんと正座の体勢で座っている私は、まるでペットのようだ。

 そして気づいたときには、私は桜小路さんと正面から見つめ合っていて、知らぬ間に腰に回された腕によりしっかりと包み込まれていた。

 どうやら私が落ちないようにしてくれているらしいが、正座から跨るような体勢になったお陰で、互いの身体が密着してしまい、恥ずかしくてしょうがない。

 命令に従ったまでは良かったが、どうにも不安定で動きにくいし、ちっとも落ち着かない。ちょっとでも動けばバランスを崩してしまいそうだ。

 そうなると正面の桜小路さんの身体にぶつかってしまいそうだ。

 この場合、ぶつかると言うより、自分から抱きつく体勢になるんじゃないだろうか。

ーーそんなの恥ずかしすぎて死ぬ! なんとかそれだけは回避しなければ。

 さて、どうしたものか、と思案していた私の眼前に、桜小路さんが片手で器用にフォンダンショコラのお皿を差し出してきて。

「せっかくのフォンダンショコラが冷めてしまう。早くしてくれ」

 急かすようにそう言われ、慌てた私はお皿を受け取り、漸く任務に取りかかった。

 けれどこれが結構難しい作業だった。

 そもそも他人に食べさせたことがない上に、この状況なのだから無理もない。

「あの、もっと大きく口を開けてください」
「あー」
「もうちょっと大きく」
「あー」
「もう一声」

 何度かこのやりとりを繰り返していたのだが、どうにもうまく食べさせることのできない私に、とうとう焦れてしまった桜小路さんから、不機嫌極まりない声音が放たれることとなった。
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