昭和懐妊娶られ婚【元号旦那様シリーズ昭和編】
小さい頃、父と姉弟と私の四人で出席したことはあるけど、父は私がいるのを忘れて姉弟を連れて家に帰ってしまったことがあったのだ。
 会場を隅から隅まで探しても父の姿も姉と弟の姿もなく、子供ながらに自分は捨てられたと思った。
 考えてみたら、私は父と手を繋いだ記憶もない。父の手はいつだって姉と弟のためにある。
 会場に残された私は、泣き疲れてテラスでボーッと月を眺めていた。
 琴さんが私がいないのに気付き慌てて迎えに来るまで――。
 そのことがあってからパーティには行かなくなったし、父も私を連れていくことはなくなった。
 多分、周囲に子供を忘れるなと言われたのだろう。
 父も私も黙り込み、場の空気が重くなったのを感じたのか、弟は話題を変えた。
「そう言えば、青山財閥の総帥が変わったんだって? 三十二歳のやり手だって話だけど」
 その話は春子さんから聞いて知った。
 以前私をうちまで送ってくれた人が新しい総帥と知ったら、直史はさぞかし驚くに違いない。

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