義理のお兄ちゃんの学園プリンスに愛されちゃってます~たくさんの好きをあなたに~
「……えっ?」
「あっ……?」
 間の抜けた声がふたつ、脱衣室に重なった。
 梓はしばらくなにが起こったのか、わからなかった。
 目の前にいるのは渉である。あちらもぽかんとしていた。
 それは特に問題ではない。問題であるのは、渉が制服を脱ぎかけた半裸状態であったことである。
 しっかりと筋肉のついた胸と、同じく筋肉のついてがっしりした脚が晒されている。
 数秒。脱衣室の時間と空気は止まっていた。
 ……。
 ……。
 ……!
 梓はやっとこの状況を把握して、はっとした。一気に顔が熱くなる。きっと頬が赤くなっただろう。
 あわわ、と後ずさって、ドアを閉めた。バターン!! と乱暴な音がする。
 けれど今は音を立てないように気遣う余裕などない。
「ごっごっごめんなさい! ま、まだっ、来てないと、思って!」
 ドアを乱暴に閉めた上に、封じるようにドアに背中を預けた。ばくばくと心臓の鼓動が高鳴る。痛いほどに速くなった。
 やってしまった、こんな、覗くようなことを。
 わざとなはずはない、事故だ。
 けれどそう思われなかったらどうしよう。
 こんな失礼なことをするなんて、と嫌われてしまったら。
 違う意味で心臓が冷えた。
「や、え、えっと、なんか、用事だったか?」
 けれど渉はそう言ってくれた。だいぶ動揺はしたようだったけれど。
 あたふた、といった調子のそれに、梓は回らない頭を駆使して考えた、けれど言い訳など思いつかなかったので、正直に言う。
 実際、わざとではないのだから、本当のことを言うのが一番間違いがないけれど。
「あっ、あのね! 入浴剤を入れ忘れちゃって……入れようと、思って……」
 ああ、入浴剤なんて気にすることなかったのに。入れておかなくても、お兄ちゃんなら気にしない、もしくは自分で入れただろうに。余計なお世話どころか、余計な行動だったのだ。
 やはり嫌われてしまったら。
 胸がひやりと冷える。
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