義理のお兄ちゃんの学園プリンスに愛されちゃってます~たくさんの好きをあなたに~
「お兄ちゃん、今日は部活?」
 スポーツバッグを見て、梓は質問した。庭を抜けて、門を出て、学校への道を歩きだしながら。
 この道を歩くのもずいぶん慣れてきたこの頃だ。
「ああ。ちょっと遅くなるから……夕飯は母さんが作るってさ」
「そうなんだ。……私も手伝うよ」
 夕飯はお母さんの担当らしい。でも任せっぱなしというのは、もはやためらわれた。
 前の家では毎食お母さんが作ってくれていて、梓が料理をするのはお母さんに用事があるとか、もしくは休みの日で時間があるとか、そういうときだけだったけれど。
 でも今ではあんな立派な朝ご飯を作ってくれるひとが一緒に暮らしているのだ。仮にも女の子である自分がただ、作ってもらって食べるだけなど。
「それがいいな」
 渉はそれだけ言って、前を向いた。ポケットからスマホを出して、ちらっと見る。どうやら時間を見たようだ。
 あまり時間はないから、さっさと歩かないと。梓はそれを見て思って、ちょっと速足になる。
 なにしろ渉は年上なだけではなく、運動部なので足も速いのである。梓を置いていったりはしないけれど、やはりそれにあまり甘えるのも、と思うのだった。
 学校はそれほど遠くない。十分程度で着いてしまう。学校に近いからと、お父さんとお母さんがここに家を決めてくれたのだから、ある意味当たり前かもしれないが。
「じゃ、また」
 校門前で渉と別れる。慶隼学園はとても大きい。中高一貫であることもあるが、一学年だけでも百人単位なのだ。よって、学年が違うだけでも過ごすエリアはかなり大きく離れている。
「うん、頑張ってね」
 梓は渉に言った。渉は「ああ」とだけ言って、ちょっと手をあげて昇降口のあるほうへ歩いていく。
 その後ろ姿を見送って……梓はちょっと、目をまたたいてしまった。
 一人になって歩いていく渉。その様子を見ているのは梓だけではなかったので。
「小鳥遊くんよ!」
「今日はちょっと遅いのね」
 言い合っているのは女子生徒。顔を明るくして、言い合っている。
 渉にとって、同級生なのか後輩なのかはわからなかったけれど。小鳥遊先輩、ではなかったから、同級生かもしれない。
 そう、『お兄ちゃん』が歩くと大抵こうなるのだ。
 渉は学園で非常に人気があった。今のように女子に好意的な目を向けられるのはもちろんのこと、男子の友達も多い。
 社交的で明るくて、誰にも優しいので好かれる要素はたっぷりあるだろう。
 こんな、学園でも人気の『王子様』がどうして自分と兄妹になってしまったのか。梓はいまだに首をひねってしまうのだった。
 カバンを持って、その様子を見守っているうちに、うしろからぽんと肩を叩かれた。
「おはよう梓ちゃん!」
 振り返ると友達が立っていた。にこにこと朝から元気な顔をしている。
「おはよう」
 梓も振り返って、にこっと笑った。せっかく会ったのだから、連れ立って教室へ行くことにする。
 一年生の昇降口へ向かいながら、ちらっと渉の歩いていったほうを見る。もう渉はさっさと歩いていってしまったらしく、姿は確認できなかった。
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