義理のお兄ちゃんの学園プリンスに愛されちゃってます~たくさんの好きをあなたに~
 だけどそれとは裏腹に、梓は安心するどころではなかった。
 いや、安心はするけれど、渉に抱きしめられているのは現在もなのである。
 むしろ危機が去っただけに、この状況がダイレクトに迫ってきてしまって。
「あ、あの」
 梓はなにか言おうとした。そこでちょっと顔をあげたのが悪かった。至近距離で渉としっかり目が合ってしまったのだから。
 渉の目はまだちょっと硬かった。緊張していたからだろう。
 その目の奥がゆるんだ。梓を見つめて、だ。
 そんなふうに見つめられれば、心臓の鼓動などまったくおさまらなくて。さっきから高鳴りっぱなしで痛いほどだ。おまけにきっとさっきの比ではなく赤い顔を見られてしまっているだろう。
 ふと、渉が口を動かした。
「……悪い、驚かせたよな」
 そう言われて腕をそろっと解かれてしまった。やっと解放されて、梓はほっとした。心底ほっとした。
 もちろん、嫌であったからなはずはない。これ以上は緊張とか恥ずかしさとか……そういうもので死んでしまいそう、なんて思っていたもので。
 失礼だが、ほーっと息をついてしまった。
「ごめんな?」
「う、ううん……」
 そんな梓を覗き込んできて、もう一度謝ってくれた。梓はやっと返事をする。
 ごめんな、と言われても。
 悪いことをされたとは思っていない。けれどこんな、ちょっと抱き寄せられただけでこんなふうになってしまっているのを見られるのは気まずすぎるではないか。
 ごまかすように、梓は言っていた。
「ば、バスケ部、行かなくて良かったの……?」
「……ああ。もうちょっと……昼飯を食ってから行こうかと思ってたから……」
 渉はちょっと黙った。どうして黙ったのかはわからないけれど、それは一、二秒ほどですぐ言ってくれた。
「でも、後輩の子、お兄ちゃん……」
 お兄ちゃんに、早く来てほしそうだったよ。
 と、言うつもりであった。けれど口からそれは出てこなかった。
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