義理のお兄ちゃんの学園プリンスに愛されちゃってます~たくさんの好きをあなたに~
 梓がためらっていると、ふと、手になにかが触れた。ペットボトルを持っていないほうの手に触れられる。
 ふんわりやわらかなその手は、楓のものだ。バレー部で活躍しているだけあって、しっかりしていた。
「梓ちゃんを否定したりしないよ。信じてほしいな」
 ぎゅっと手を握られて、そこから伝わってくる。
 楓が本気で心配してくれることも、梓にそうしてあげたいと思ってくれていることも。痛いくらいに胸にしみた。
 その感触とあたたかさは梓に勇気をくれた。
 ごく、と唾を飲んで、梓は口を開く。やはり声は震えたけれど、頑張って押し出す。
「断って、たんだけど。それが……好きな子がいるから、って……、……っ」
 言った。
 起こった事実をすべて。
 でもこちらのほうが重たい事象であるうえに、自分にもっと関係してくることなので、耐え切れずに喉が鳴った。またぽろぽろと涙がこぼれてきてしまう。
「……そうなんだ」
 ぎゅっと、梓の手が再び握られた。梓をなぐさめてくれるような、力を込めるよりも包むような握り方だった。
「お兄ちゃんに好きな子がいる、って思ったら……っ、……そんなのは、……って」
 『そんなのは』というのはあいまいすぎた。けれどこれ以上はっきりした言葉にはできない。
 『そんなのは嫌だと思う』なんてこと。
 でも楓は鈍くない。それどころかひとの心を察して気遣うのがすごくうまいのだ。わかってくれたらしい。
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