生涯18
 


《————はい、続いては東京都港区…さんからのお便りです》



 夢砕け、言葉にした時点で世界に浸透して形になる。そんな映画やドラマや漫画みたいな世界が、現実にはない。妻は帰ってこないし、娘には目を盗んでたまにメッセージが来るようになったが、まぁ、それが前進と呼べるかというと曖昧なラインである。相変わらずローンは残っているし負債は残っているし、ただあの居ても立っても居られなくなったあの日、死に物狂いでなりふり構わず同級生に連絡を取ったら「お前そんな状況なの?」と笑った友人のコネで地方のラジオ局のスタッフの面接を受けさせてもらえることになった。

 もう48だ。あの頃の青さは遠のいて、空の青さと反比例するように霞んでしまった。珈琲の波紋に映る自分の皺は増えていく一方だし、貫禄はまるでないのに、白髪だけが増えていく。それでも熱意を買ってくれて、今は正社員になった。

 近く、帰ってこない妻と会う約束をしている。

 安定した職についたとはいえ今更な夢の回収に驚いて振り向いてくれないかもしれない。ラジオパーソナリティにはなれそうにもないし、今だってガラス越しに指を咥えて私より20も若い女性パーソナリティの便りの音読に耳を澄ませている。


《えー、春になり、念願の志望大に入学しましたがままならないことが多い、夢のキャンパスライフかと思っていたのに案外世界は笑いかけてくれない、だが空は青いのが腹立たしい、…ふふ、なんだか侍みたいですねこのお便り》


 顔を上げる。耳を澄ませて、目を見張る。

 そして、ふいに涙があふれた。その便りの言葉を見て、ああ、と思った。


———大人はあれこれ言い訳じみた御託を並べて自分をすぐに雁字搦めにする、飛躍の翼を自分でへし折る、難癖をつけて、社会のせいだと決めつけて、恥を知れ、可能性はそんなことで挫けない。あの日、彼女はそう言った。

 言葉にしたら世界に浸透して、形になる。そんな都合のいい言葉を、そうだな。今だけは、信じてみてもいい。

















《躍進、18の精神。

 生涯18、この心を忘れなければお前は大いに飛躍する。私も高く跳ぶ。だから携えてただがむしゃらに前に進め。

 あんたは、かっこいい。




           中年の夢を応援している、侍JKより》




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