ホオズキの花 〜偽りから始まった恋の行方〜

「私、矢島さんの義妹(いもうと)になっちゃうんだよ?付き合ってたのに。結婚するのは、私だったはずなのに。」

「晴日......」

「今更、どうするの?愛人になれとでも言うのかな?馬鹿にするのもいい加減にしてっ!」

「落ち着けって。声が大きいよ。誰かに聞かれでもしたら――」

 彼は、とても焦っていた。

 でも、そんな彼の気持ちになんて目もくれない。声を荒げずにはいられなかった。

「聞かれたっていいよ。私たちが付き合ってたことなんて、みんな知ってるんだから。」


 私の家は、先祖代々続く医師家系。

 20もの診療科が備わり、都内でも有数の最新機器を導入している病院――瀬川総合病院を経営している。

 現院長で厳格な父から厳しく育てられ、そんな家で育った私は、幼い頃から敷かれたレールの上を歩いてきた。

 習い事も学業も、それに仕事だって何もかも言う通り。窮屈だったけど、父には逆らえないという暗黙のルールがあった。それが、私の人生。


 でも、そんな私が唯一、自分の意思で決められたこと。それが、矢島さんとのことだった。


「お父さんもお母さんも、桜だって。院内でも知らない先生はいないでしょ。」


 何かを訴えるようにジッと彼を見上げると、ばつが悪そうに目を逸らされる。今やこうなってしまった私たちも、病院内では公認の仲だったのだ。

< 3 / 264 >

この作品をシェア

pagetop