恋する乙女はまっしぐら~この恋成就させていただきます!~
「あっ…」

突然の出来事に唖然としている私の目の前を "沖田" と呼ばれた男は、再びラーメンののったトレーを手にして何事もなかったように席に向かって歩き出した。

静まり返っていた食堂がざわつき出して、はっと我に返った私は、慌てて厨房から出るとその後ろ姿を追いかけた。

席についた彼に追いついた私は

「先ほどはどうもありがとうございました」

と頭を下げた。

「礼なんて必要ない」

「えっ…?」

冷ややかな声にすぐに顔を上げた私は目の前に座る男をじっと見つめた。

「クレーム対処が黙って相手の話を聞いて気持ちを逆なでせずに謝らなきゃならないのは当然だ。

なのにお前、自分は悪くない、間違ってないって反抗的な目で睨みながら謝ったって逆効果なんだよ。

言いたいこと我慢して謝るぐらいなら簡単に謝るな。

間違ってないなら自分が正しいと主張しろ。

社会人だろ。自分の気持ち押し殺して対処できるくらい大人になれよ。

お前思ってることが顔にだだ漏れ」

なんで…?助けてもらったお礼を言いに来たはずなのに、私この人にお説教されてる…?

沖田という男はもう私に興味も用もないといわんばかりに一方的に言い放つと、携帯に視線を落とすとラーメンをすすり始めた。

この人に指摘されたように確かに私は思ってることが顔に出る。
今も目の前の男をムッとした顔で睨んでいる。

仕事に戻るために私はムッとした顔のままもう一度会釈した。

「わざわざご指摘していただきどうもありがとうございました」

微かに口角をあげた沖田が私を見上げ視線がぶつかる。

「どうも」  

ドクン!と私の胸が音を立てた。



たぶん…。


今彼は微かに微笑んだ…。


彼の微かな笑顔が私の胸をざわつかせた。



この日からあの佐伯という学生が私に絡んで来ることはなくなった。

あの時助けてくれた人が、首席入学した天才で、勉強や技術はもちろん、その判断力と度胸強さに学生も教授たちも一目をおいている人物だと知り、別世界の人だと思いながらも私はあの日から校内で彼の姿を毎日探し目で追い続けた。
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