年の差政略結婚~お見合い夫婦は滾る愛を感じ合いたい~
 

「聞いたよ。秘書課の新入社員に間違われたんだって?」

パーティーが終わり、帰りのリムジンの中で幸景さんは「お疲れ様」と私を労ったあと、その話題に触れた。

いつの間にか彼が情報を収集していたことも、その話題を振ってくることも予想外で、私はなんて言葉を返すべきかわからないまま「……すみません」と謝った。

「どうして璃音が謝るの?」

「その……私が未熟だから、幸景さんの妻に見えないんだと思って……」

肩を落として話す私を見て、彼は隣の席から手を伸ばすと、セットした髪が崩れないように軽く頭を撫でてくれた。

「お馬鹿さんだね。きみが謝ることはひとつもないよ。間違えた彼は璃音を直接見たのも初めてだったし、年若いから人の持つ品格や優雅さがまだわからないんだ。一般の社員が着るような着物と、主催者の身内が身につける着物との違いもわからないくらいだ。気にすることはないよ。きみが僕の妻として未熟だと思う人物がいたら、それはその人物の見る目の方が未熟ということなんだから」

「……はい」

幸景さんの言葉は説得力がある。伊達に数万人もの社員を従える立場にいない。
彼に励まされたことで、すっかり萎んでいた自信が少しずつ回復してきた。

ようやく顔を綻ばせた私を見て、幸景さんも安心したように目を細める。

「きみはこの世界でただひとりの僕の妻だよ。だから堂々と胸を張りなさい」

胸に沁みるその言葉に幸せを感じて、そっと彼の肩に凭れかかれば、幸景さんは私の肩に手を回し優しく抱き寄せてくれた。
身を寄せ合ったまま、静かに時が流れる。

新入社員に間違われたのはとんだ災難だったけれど、今日の頑張りを幸景さんは見ていてくれた。もしかしたら私を少しは頼もしいと見直してくれたかもしれない。
それならば当初の目的としては合格だと思い、私は密かに口角を上げた。
……ところが。

「……秘書か」

ポツリと呟いた幸景さんの言葉に顔を上げ「え?」と返すと、彼は照れたように、けれどどこか嬉しそうに微笑んで私を見た。

「秘書になった璃音も悪くないなって、想像してたんだ。きみが新入社員で入ってきたなら、さぞかし愛らしいだろうね」

(……あれ?)

彼の言葉に、心の中で先ほどの合格にペケがついた気がした。
……幸景さんの目から見ても、私ってやっぱり新入社員がお似合いなのだろうか。

きっと幸景さん的には可愛いと褒めてくれているつもりなのだろうけれど、でもそれってあの男性社員が言ってた『奥様が大変お若く可愛らしかったものですから、てっきり秘書課の新入社員かと思いまして……』って台詞と何が違うの?

複雑そうな表情を浮かべてしまった私に、幸景さんはハッとすると慌てたように「違うよ。きみが僕の妻として未熟とかそういうことじゃなく、もしきみがうちの秘書課にいたら僕は目尻が下がってしまうだろうなって、想像の話だよ」と言葉を付け足した。

わかっている、彼が私を非難するつもりで言ったのではないことぐらい。
けれど今日の私は新入社員のように頼りなくて可愛らしいと思われるより、しっかりしていて妻として相応しいと思われたかったのだ。

「大丈夫、わかっています」と作り笑いを幸景さんに向かって浮かべつつ、私は密かに激しく落胆していた。
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