年の差政略結婚~お見合い夫婦は滾る愛を感じ合いたい~
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「なんだか最近、機嫌がいいね。何かあった?」

幸景さんがそう聞いてきたのは、『白百合蝶子さんと過ごすティータイム』を翌週に控えた週末のことだった。

彼がお休みの本日、私たちは夫婦そろってクラシックコンサートを聴きに上野までやって来ていた。
開園は夜からなので、早めのディナーを取り、散歩がてらレストランから会場へ向かう。

幸景さんはお休みになると色々な所へ連れ出してくれるけれど、やはりふたり並んで歩くのは何度経験しても嬉しい。
そんなご機嫌な気分で隣り合って歩いていたときに『機嫌がいいね』などと言われたものだから、私はなんの疑問も抱かず素直に頷いた。

「幸景さんとお出掛けするときはいつだって上機嫌ですよ」

けれど、いつもならばそれで『璃音は可愛いね』と目を細めてくれる彼が、今日は「そうじゃなく」と言葉を続けた。

「今日だけでなく、最近だよ。何か浮足立っているように見える」

別に悪いことをしているわけではないけれど、ドキリとした。

多分、最近の私がソワソワしているのは例の茶話会が近いからだ。
今までの悩みが解決できるかもしれないし、もしかしたら似たような境遇の人と友達になれるかもしれない。そんな期待と、初対面の人の輪に参加する緊張感を最近ずっと抱いている。

けれど自分ではそんな気持ちを表に出したつもりはなかったので、彼の指摘に驚いた。
幸景さんって、私のことよく見てるんだなあ。

「え? ……そ、そうですか? なんでだろ、もうすぐ夏だからかな……」

本当のことを言おうか迷いつつ、結局言葉を濁してしまった。
彼に秘密で色々もがいていることは、やっぱり知られたくない。
言えば、私に甘い幸景さんはきっと『そんなことしなくても、璃音は今のままでいいのに』と甘やかそうとする。それじゃ駄目なのだ。

彼の私を見る目がなんとなく怪訝そうな気がして、慌てて話を逸らそうとした。

「幸景さん、今年の夏はどこに行きますか? 海? 山?」

「そうだね、どこか涼しいところに行こうか。行きたいところがあるなら、考えておくといいよ」

幸景さんは優しくそう答えてくれたけれど、なんとなく訝しんでいると感じるのは私が後ろめたく思っているせいだろうか。

悪いことじゃなくても隠し事をすると落ち着かないものだなあと痛感しながら、私はぎこちない足取りで彼の隣を歩いた。
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