いつでもキミが


「それ全部さ、胸の中にある不安や恐怖とか、鞠の気持ちヤギさんに伝えたらいい。
絶対大丈夫だから」

鞠のウルウルする瞳の中に自分の姿が見える。
ただ真っ直ぐに伝わってくれたらいいなと思いながら。
ヤギさんはどんな鞠だって受け止めてくれるから。
まだ出会って少ししか経ってないのに自分でもこんな風に思えるのは不思議だと思う。
でもそれだけヤギさんは信用できるし、それだけのものを彼は持ってるんだ。

「それに…ヤギさんは顔が一緒なら誰でもいいわけじゃないんだって。
そんなこと鞠が一番わかってんじゃん。
ヤギさんはそういう人じゃないってさ」

「……柳沼くん、言ってくれたの…俺が好きなのは、鞠ちゃんだって…」

「うん…ヤギさんが好きなのは私じゃない。

……鞠はやっと見つけたんじゃんか。本物の王子様」

そう言うと鞠は再びポロポロと涙を流すので、私はその小さな頭をそっと撫でた。

「そんな泣くと、あの絵本の双子みたいになれないんじゃなかったっけ?」

「ふ…うぅ……っ、繭…ごめん……」

「ううん。ヤギさんになら安心して鞠を任せられるし、これからはバスケに専念できて好都合だ!」

既にヤギさんにフラれてる私のことなんか鞠に気にしてほしくなくてハハッと笑う。

「だから今から伝えに行って?今私に言ったこと、ヤギさんに」

「いま、から…?」

「まだ柔道部で稽古してる時間だし、やっぱ気持ちはその時に伝えないとさっ!
ヤギさん今頃ショックで投げ倒されてるかもだし!」

私は鞠をイスから立たせるとそのまま背中を押す。

「幸せになってくれないと許さない」

「…っ……ありがとう…繭」

「うん。行っておいで」

覚悟を決めたような表情になった鞠の背中を見送りながら、何かわからない感情の涙が一滴だけこぼれ落ちていた。ーー


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