響は謙太郎を唆す 番外編 お母さんの入院

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謙太郎のお母さんが入院したらしい。

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謙太郎が家を出て、私の家に来てから3年たった。
初秋。

大学は夏休み中の9月。
いま、私達は大学3年生。

実家と連絡もとっていない謙太郎だが、弟さんとだけは近況をラインする事もある。

その日、一緒にお昼を食べた後、ちょうど出かける前に携帯を見ていた謙太郎が、

「えっ⁈」

と言った。

「母が足を骨折して、入院したらしい」

しばらく黙って文面を読んでいたが、そのあと説明してくれた。


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お母さんは、朝、ヒールのあるつっかけ靴を履いて近所におすそ分けの果物を持っていく途中、スピードを出した車が急に曲がってきて、驚いて転んだらしい。
交通事故ではなく、その転んだ時に、左足のスネの骨が、スパっと斜めに折れてしまったそうだ。
さっき、謙太郎の父親の内藤病院に運ばれたが、弟さんは医学部の一年生で今日は授業があるらしくて、取り敢えず1人で病院に運ばれたらしい。
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ラインを読んでから、謙太郎は思い切るみたいに、カタンと机に携帯を画面を下にして置いた。

「まぁ、関係ないけどな」

と言って、夏期講習に出かけていった。

(気にしてるくせに)
と響は思った。

だから、響はじっとしていられなかった。
謙太郎が外出して1分後には響も家から出ていた。

急いで病院に向かった。

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