「君は運命の相手じゃない」と捨てられました。
「‥…」

いつの間にか寝てしまったようだ。

「―――――――」

「何?」

外が騒がしい。

聞こえる声は私の侍女のものだ。あの気の強い言い方はきっとキャサリンのものだろう。

キャサリンは薄茶色の髪を左右に結び、緑の目をしている。男爵家の次女。

「何を騒いでいるの?」

部屋の外に出ると案の定、キャサリンがいた。

言い合っていた相手はライラだ。

「お嬢様、申し訳ありません」

キャサリンは騒がしくしてしまったことをまず最初に謝った。

「お姉様、この者がお姉様の部屋にいれてくれないの」

ライラはぷくぅと頬を膨らませて私に訴える。人の部屋の前で騒ぐことが不作法だということは知らないのか、知っていて無視をしているかあるいは自分なら許されると思っているのか。

「私が彼女に言ったのよ。暫く一人になりたいから誰も入れないように」

「だったら私が求めた時点でお姉様に確認すればいいじゃない」

成程。あくまでも自分の意志を通すのね。

一人になりたいという私の気持ちは無視してもいいと。

さて。これは意識的か無意識か。

「私は休んでいたのよ。侍女はそれを汲んで退出を促した。あなたがすべき対応は引き返すことでここで騒ぐことではないわ」

私の言葉にライラは目に涙を溜める。

「そんなに私のことが嫌い?部屋に入れたくないぐらい」

うざっ。

いけないわね。淑女がそんな言葉を心の中とはいえ使っては。

「あなたは私を叩き起こしてまで一体何をしようと言うのかしら?」

「私はただお姉様と仲良くなりたくて。折角、家族になれたのに」

家族、ね。

本当に癪に障る女ね。

「そう言えばさっき聞かなかったんだけど、質問いいかしら?」

「はい!何でも聞いて」

さっきの涙はどこにいったのかしら。

私が自分に関心を示していると思ったのかライラは急に嬉しそうに笑う。移り変わりの激しい人種ね。

「あなたはお父様とお義母様の子?それともお義母様の連れ子?」

「私は連れ子じゃないわ。ちゃあんと、お父様の血を引いた子よ。半分だけどお姉様とちゃあんと血が繋がっているから安心して」

そういうつもりで聞いたわけじゃないんだけど。安心してって意味不明。何に安心しろってことかしら?

自分が私に受け入れられて当然と思っているのね。拒絶されるなんて夢にも思っていない。

幸せな女。

ライラは私と同い年ぐらいに見える。

つまりお父様は不倫していたということだ。

私の家族を壊した要因は彼女たちにもある。それを分かっているのかしら。

きっと見ないふり、気づかないふりをしているのでしょうね。人は臭い物に蓋をしたがる生き物だから。

「キャサリン、夕食は要らないわ」

「何も食べないというのはお体に障ります。軽い物を部屋にお持ちします」

「ありがとう」

部屋に戻ろうとした私の後に続いてライラも部屋に入ろうとする。

「何?」

私が問うとライラはきょとんとする。「えっ?入っちゃダメなの?私はその為に来たのに」とでも言いたげな顔だ。

「何の用なの?用がないなら帰ってくれる。疲れているの」

「ご、ごめん。お姉様の気に障ることしちゃった?ただお姉様と仲良くなりたくて」

自分の意志ばかり通すのね、あなたは。

「なら弁えなさい」

ドアを閉じる際、ライラの傷ついた顔がちらりと見えたけど無視した。
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