Pierrot
リビングに入れば、パートをしている母が夕食を作っている最中だった。いい匂いが漂う中、「おかえり」と微笑んでくれる。

「ただいま!この匂いって肉じゃが?」

目を輝かせながら詩音が訊ねると、母は「当たり!」と言う。詩音は「すぐ着替えてくるね!手伝うから!」と言い、自分の部屋へと向かう。

その時、壁にかけられたカレンダーに目が何となく向かった。カレンダーには、家族全員分の予定がびっしりと書かれている。今月の終わりの週には、「九時から××病院で検査」と書かれていた。詩音は不安を覚え、キッチンで料理を続ける母の方を見る。

詩音の祖母はすでに他界している。原因は乳がんだった。詩音が幼い頃に亡くなったのだが、母がこっそり泣いていたのは覚えている。

それから、母は定期的に乳がん検診を受けるようになった。いつも「問題なかったよ!」と笑ってくれるが、母が検診の前はいつも詩音は不安になってしまうのだ。
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