絵乃糸、文乃糸編
 絵乃糸は二十歳で、文乃糸は十六であった。思えばその目の色は青く花の色を模していてー、美しかった。文乃糸はそれを笑って見下していたー。
 僧安の古いよしみで、絵乃糸は文乃糸と仲が良く、少しの翳りも見せなかった。笑った。刹那、式部の花が散った。
 まだ風を受けて立っていられるかしらそう、そんな事を思っていたー。二人は神格の無いミタマでー、少し泣いていた。
 思えば、淋しい時文乃糸に連れ立って仕舞いたいですわと言った。届かなかった。文乃糸は出て行った。
 後から来た男問屋に何ぞ興味は無いわ。苦しい。心を痛めてしまった絵乃糸は、泣いて後を追った。
 貴女の目の色は青でしたかー。みながそう言った。そんな刹那気にも、大雨の中の様な冷たい心の中、一人の神が頭を下げて現れ、完全にいつか自分を愛すると言って泣いた。 
 それは実は嘘で、気持ちは伽藍堂にも入ってはいないと言った。
 嘘なの。そう、いつ死んでも良いのだから。きっと嘘なの。
 泣くけれど、そこはもう海の中に迄達していてー、死ぬ事を貴方は望むのよと言った。何故もなんぞも無い。
 その顔はヒトを小馬鹿にしていてー、本寧舟の上から女を見ている神世代に過ぎないー。
 思えば、遙か海底に差し置いて実は愛されていたのだと悟った。女らしくも無い。二人は少女の心を確かに持っていたー。
 絵乃糸は絵をしたためて泣こうとしていた。文乃糸はそれをじっと見ていた。
 格好良い。金髪の男で、美しい陀羅尼もどきでしたわ。知らなかった。
 いつか曼荼羅に帰る時に、極楽浄安に業嵩み入れないと知った時に思うのよね、あたしは文乃糸で良かったわ。
 そうけえ、あたしはその男が良かったわ。笑いを溢して青い花ー、そう語り掛けて今尚愛してと言いたかったよあんた。
 欲を言うとね、本当に一切の美しさも目に余る美女でいとう御座居ました。絵乃糸は、文乃糸と死ぬ話ばかりしていて泣かせた。思うの。
 本当に、始まりは苔むした丘の上にあったとした。懐かしい、エンジェルくらい飛んでいたじゃ無いねえ。
 二人は転げ落ち死んでクニタチの僧安二人の尼に過ぎない。
 泣いて、もうお呼びもつきませんわと息吹いていたと言う。思うの。それは怖い事でもあってー、女の子だった事をあたしに思い出させたわ。分かるとでも?でも言うわ助けてとー。
 本当の意味で、絵乃糸は文乃糸と、大日に愛されたかったと後年話していた。名付けたのは大日かい、そんな洒落を飛ばしては笑って、そんな一日を今日も、一日だけで消し飛ばしてもらいとう御座居ますと溢したと言う。古い法要で御座った。
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