囚われのおやゆび姫は異世界王子と婚約をしました。




 彼の笑みと声音はとても穏やかで、朱栞を安心させるものだった。
 そして、自分の予想が当たっていたことに、朱栞は少しだけ安堵した。
 シャレブレは遠い世界であるはずだが、朱栞たち元の世界の人間達にとっては近い存在だった。誰でも1度は、どんな世界が広がっているのだろうか、と想像したことがあるはずだ。妖精と空を飛んだり、魔法を使ったり、魔獣を倒したり。
 そんな非現実的世界がシャレブレだった。


 その世界に自分が転移した。

 信じられない気持ちと共に、ある感情も湧き上がってくる。


 あの人がいるかもしれない。



 「異世界からきた君にいろいろな事を教えよう。心配もあるかもしれないが、大切に扱うと約束しよう。あぁ、こちらに来たばかりだから飛べないだろう?だから、俺の手に乗って」
 「え……飛べるって」
 「君の背中にある羽。君は妖精だよ、小さなお客様」
 「羽………え、嘘………」


 朱栞は恐る恐る後ろを振り向く。
 すると巨人の男が言ったように、先程の妖精と似た羽が背中から出ていたのだ。ただ先程のトンボのような羽とは違い、鳥の翼のような羽だった。白鳥と同じ白色の羽は、キラキラと光っている。本当に自分に羽がついているのか、と朱栞は背中を動かしながら確認したが、それはふわふわと揺れながら朱栞の後ろをついていく。重さは感じないが、やはり自分の背中に羽がついてしまっているようだ。
 どうやら、朱栞はシャレブレに転移し、妖精になってしまったようだ。


 「私、妖精になったの………?」
 「妖精に転移することは、今までなかった。君は特別なんだ」
 「………」
 「……と言っても、不安が多いだろう。だからその不安や疑問を俺が無くしてあげる。さあ、お手をどうぞ」


 
 周りに他の人は見当たらないし、近くには巨人の彼の他に言葉がわからない妖精しかいない。
 どうやら、目の前の彼に頼るしか方法はないようだ。

 朱栞は、ゆっくりと男の手に近づき、片足を乗せた。
 裸足だった朱栞の足裏から、男の温かい体温を感じられ、朱栞は現実なのだと思い知らされたのだった。
 
< 11 / 181 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop