囚われのおやゆび姫は異世界王子と婚約をしました。



 「……シュリ。こうやって抱きしめるのはダメか?」
 「ラファエル様。私たちは契約での婚約なのです」
 「俺は君の事を愛おしいと思っているんだ。君を抱きしめたいし、触れたいし、キスだってしたい」


 ラファエルは朱栞の頬に指を置いた後、ゆっくりと唇に移動させる。彼の細い指から温かい熱を感じ、朱栞は体が震えそうになる。


 ラファエルとの契約での婚約。大人同士の契約で、しかも婚約となればそのような事を含まれるだろうと、朱栞は理解していた。好きな人のために契約を結んだが、穂純とは恋人でも何でもない。朱栞のただの片思いなのだ。朱栞がどこの誰と、どんな事をしようと穂純は何とも思わないだろう。
 だからこそ、穂純を探すためにどんな契約内容でも受けようと思っていた。ラファエルとの深い関係になってもいいとさえ思っていた。


 「ごめんなさい、ラファエル様……」
 「いいんだ。君に無理強いをさせるつもりはない。俺が一方的に気持ちを寄せているだけなのだから」


 そう言う彼は笑おうとしていたが、とても悲しげな表情だった。
 ラファエルは優しい。王子なのだから、少し強引に取引を進めてしまえばいいのに、と思ってしまうが、朱栞の気持ちを最優先に考えてくれている。だからこそ、今まで抱きしめる事さえもしてこなかったのだろう。


 「けれど、俺は君を抱きしめたいし、それ以上だってしたいって思っている事は忘れないで欲しい。俺だって男だ……」
 「ラ、ラファエル様……」
 「君の契約上の希望も聞いた。だから、俺からも希望を出すよ。君が求めるまで、俺はキスもしないし君を欲することもしない。それは誓おう。だから、君と手を繋ぐこと、そして触れる事、抱きしめる事だけは許してくれないかな。そうしないと、一緒に寝る事が出来ないから」



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