幼馴染からの抜け出し方

 *


「それで、俺の家に来たってこと?」

「うん」

「うん、じゃなくてさ」


 呆れたように呟くのは、幼馴染の蓮見(はすみ)由貴――愛称は『由貴ちゃん』だ。

 同じ歳の二十五歳で、性別は男。名前が女の子みたいだから、ちゃん付けで呼ばれるのが本人はあまり好きじゃないらしい。でも、私は子供の頃からそう呼んでいるので今さら変えてあげない。

 由貴ちゃんは大学進学をきっかけに千葉の実家を出て、都内でひとり暮らしをしている。今は、1LDKのマンションの十三階に住んでいて、私はここを『セカンドハウス』と呼ばせてもらっている。


「そういうことで由貴ちゃん。今日、泊まるね」

「お好きにどうぞ」


 泊まらせてもらうのだから、その理由はもちろん由貴ちゃんにしっかりと説明した。

 彼氏に二股をかけられていたこと。どうやら私が浮気相手で、本命彼女に右頬を思い切りぶたれたこと。そして、この腫れた頬で家に帰るとお母さんが驚いてしまうので、一晩だけ泊めてほしいこと。

 あの心配性で過保護な母親も、幼馴染の由貴ちゃんには全幅の信頼を寄せているので、『由貴ちゃんのところに泊まる』と連絡すると、簡単に外泊の許可をもらえるのだ。

 これまでも、職場の同僚や友人たちとの飲み会などで帰りが遅くなるときは、千葉にある実家よりも都内にある由貴ちゃんのマンションの方が帰るのに便利で、何度も泊まらせてもらっている。

 由貴ちゃんは私が泊まることに対して、少しだけ面倒そうな素振りを見せつつも、今日も温かなココアを出してくれた。こういうところ由貴ちゃんは本当に優しい。

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