弔いの鐘をきけ

 ――ママはどうしてパパの言うとおりになんでもできるの? あたしわからないよ、パパのお部屋にはたくさんの本があるのに難しいから読んじゃ駄目だって怒られちゃうし、ママも読んじゃ駄目って言われてるんでしょう?

 嗚呼ニコール、あなたはまた隠れてお父さまの書斎に入っていたのね、いけないことだと何度言ったらわかるのかしら。

「パパ、もうあたしだって読み書きできるよ? パパのお仕事だって何か知ってるし、邪魔なんかしない。だから」

 父親の背中が遠くなる。一度もニコールの方を振り向くことなく、眩しいばかりの太陽に向かって早足で館から離れていく。
 ニコールはあらんかぎりの声を発する。深緑の蔦に覆われた伽羅色のこの館が震えてしまいそうなほど、甲高い声で。
 懇願する。
< 2 / 48 >

この作品をシェア

pagetop