精霊たちのメサイア

38.家族の為、そして自分の為に

38.家族の為、そして自分の為に



どれほど泣いていたのか分からないけど、窓の外を見ると暗くなり始めていた。相当な時間泣いていた様だ。その間ずっとラウを抱きしめていた。それでも嫌な素振りを見せる事なくずっと側にいてくれた。

泣きながらずっと葛藤していた。

お父様やお母様が家族として迎え入れてくれた事をとても嬉しく思っていたくせに、私自身ちゃんと向き合えていなかった。日本にいる家族とも呼びたくない人たちと、ヴァレリー家のみんなは全然違うのに……こんなにもたくさん愛情を注いでくれていたのに……私は私のことばかりで、逃げることしか考えていなかった。


「ラウ……勇気を出したら、私、変われるかな……」

「か、わ……れる……」

「ラウ……」


出会ってから頷いたり首を振ったりはしてくれても話してくれる事はなかった。


「おれ、ゆーき……だした。 そしたらか、われた…しあわせ」


覚束ない話し方で一生懸命気持ちを伝えてくれるラウを優しく抱きしめてお礼を言った。

ジュリオにもらったお花をラウに渡して私は部屋を出た。


「レイラお嬢様!?」


出たところでサラに出会った。


「テオが何処にいるか知ってる!?」

「最近は図書室に篭って__」

「ありがとう! ちょっと行ってくる!!」


使用人たちに驚かれながらも、走って図書室に向かった。

私は弱いから、また時間が経てばグズグズと悩んでしまうかもしれない。だから今のこの気持ちと勢いのまま、テオに会いたかった。

図書室のドアをノックすると、ドアを開けてくれたのはテオだった。テオの顔はアロイス兄様以上に疲れていて、クマも酷かった。こんなにやつれていたなんて……本当に自分は何も見えていなかったんだと自己嫌悪に陥る。


「レイラ? どうしたの?」

「あ、あのね__! トゥーサン殿下! ご挨拶が遅くなりました」


テオの先にトゥーサン殿下の姿を見つけ慌てて挨拶をした。


「レイラ嬢久しぶりだね、気にしなくていい。 テオ、中に入ってもらったらどうだ?」

「あ、ああ……そうだな」


中に入るとパトリック様とジュール様もいた。散乱した本に埋もれて、みんな疲れた様子で顔色が悪い。


「それで、どうしたんだ?」

「……アロイス兄様からジュリア殿下の事聞いたの」

「そう……その件で今忙しいんだ。 だから悪いけどレイラと話してる時間はないんだ」

「方法は見つかったの?」

「ッッ! 今探してるよッッ!!!!!」


テオのはじめての怒声に思わず肩がビクッと震える。


「落ち着けって! レイラ嬢、悪いな。 少し気が立ってんだ……許してやってくれ」


パトリック様にそう言われて私は笑おうとしたけど、泣きそうになった。

ポケットから瓶を出した。


「テオに渡したいものがあってきたの。 受け取ってもらえない?」

「レイラ、ダメ……これはだって、レイラのだよ……」


泣きながらそう言ったのはテオの精霊、ミーシャだった。


「そうだ! それはレイラのだ!! 怒られるぞ!!」


そして心配してくれるトゥーサン殿下の風の精霊、カレル。

パトリック様とジュール様の精霊も心配してくれる。そんな精霊たちに笑って見せた。


「アルファは怒らないわ。 だってこれは私の為でもあるんだから」


テオの手のひらに瓶を乗せると、瓶が微かに光った。


「これで所有者はテオになった。 だからこれはテオにしか使えない」

「これは……?」

「これはどんな病もどんな怪我も、失った手足でさえ元に戻せる……世界樹の涙、だよ」


私がそういうと室内が静まり返った。


「今、なんと仰いました……?」


静寂を破ったジュール様にもう一度「世界樹の涙です」と言うと、驚きの顔が更に驚きに変わった。


「伝説の秘薬ですよ!? 一体何処で__!?」

「頂き物です」


涙の止まらないミーシャの手を両手でそっと握った。


「私もジュリア様に早く元気になってもらいたいの。 だからこれをテオにあげたの。 使い方をテオに教えてあげてくれる?」


ミーシャは何度も頷いた。


「レイラ……本当にこれが世界樹の涙、なのか?」

「うん、そうだよ。 だからこれを持って早くジュリア様のところに行ってあげて。 それで、帰ってきたら私の話を聞いてくれる?」

「レイラッッ__ありがとう!!」


テオはギュッと私を抱きしめると足早に部屋を出ていった。みんなも「ありがとう」と言って慌てて部屋を出て行った。

机の上や床に散乱した本と一緒に部屋に取り残された私の心は少し軽くなっていた。

本を片付けていると、サラとリタがやってきてテキパキと片付けられた。「心配かけてごめんね」と言うと、「元気になられて何よりです」と言ってくれた。

まだ少し重い雰囲気の食事中、私は意を決して口を開いた。


「アロイス兄様」

「なんだ?」

「テオとジュリア様の婚約解消だけど……もう、きっと大丈夫だよ」

「……どう言う事だ?」

「さっきテオに世界樹の涙を渡したの。 だからジュリア様はすぐに元の生活に戻れるよ」

「世界樹の涙! 僕知ってるよ! お姫様の眠りを覚まさせるやつでしょ!?」

「そうだよ、その世界樹の涙」


そう、この世界の童話に世界樹の涙が出てくるお話がある。呪いによって眠りから覚めないお姫様を救う為、世界樹の涙を探し求めて冒険する王子様のお話。


「世界樹の涙は御伽噺に出てくるもので、存在するはず__」

「何があるか分からないから持っていろって渡されてたの」

「渡された? 誰に?」

「精霊王に」

「レイラ……君はいったい__」

「決心がついたんだな」


困惑するアロイス兄様の言葉を遮ったのは、兄様の火の精霊アントンだった。


「アントン? 一体どう言う事だ」

「レイラはメサイアだって事」

「アロイス兄様、黙っていてごめんなさい」


私がそう言葉にすると、周りにいた精霊たちが一気に姿を表した。兄様だけじゃなくマリエルさんや使用人たちは驚いた。驚かなかったのはサラとリタだけ。ジュリオは目を輝かせている。


「凄い! すごーい!! 精霊がいーっぱい!!」


ジュリオは近くにいる下位精霊に目が釘付けだ。


「ジュリオ、空いてるお皿に小さく切った果物を乗せて、どうぞってあげると喜んでくれるわ」


直ぐにジュリオは空いてるお皿にさくらんぼや林檎をのせてあげると、下位精霊たちが寄ってきた。


「ありがとー」

「わーいー」

「おいしー」


ずっと黙っていたからアロイス兄様怒ってるんじゃないかと、顔を向けられなかった。


「レイラ」

「……はい」


名前を呼ばれて恐る恐るアロイス兄様の顔を見た。いつもの鉄壁の顔に戻っていて、怒っているのかどうか分からない。


「この事、父と母は知っているのか? というか、レイラ付きのメイド2人は知っていた様だな」

「侯爵領のお家では温室で精霊たちに歌をうたってあげてるの。 だから精霊たちのことはお父様もお母様も知ってる。 だけどメサイアだってちゃんと話した事はないの。 だからサラとリタも私がメサイアだって事は知らなかった。 だから、だからね……2人の事を怒らな__」

「心配しなくていい。 2人を咎めるつもりはない。 寧ろこの事を誰にも漏らさなかったんだ、レイラ付きのメイドが信用するに足る人物で安心した」


アロイス兄様の言葉にホッと胸を撫で下ろした。


「アロイス兄様、私の話を聞いてほしいの。 お父様とお母様、エタン兄様、グレゴワール兄様……みんなに話したいことがあるの……」

「分かった。 直ぐに声をかけよう」

「ありがとう」


食事が終わってからもマリエルさんとジュリオの3人で精霊たちとお茶会をしながらのんびりと過ごした。




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