ステレオタイプの恋じゃないけれど

 どうしよう。
 困ったなと思って、すぐに気付く。いや、普通にインターフォン押せばいいだろ、と。

「っ、いざ……!」

 息切れと緊張、ふたつの意味でバクバクとうるさい心音を聞きながら、彼女が住まう部屋の番号を押す。
 一秒、二秒、三秒。
 人差し指をゆっくりと握りこんで、グーになったと同時に、ふと、思った。不在だったらどうしよう、と。しかしすぐに思い出す。本日は火曜。定休日は明日。ということは家にいるはず。と、そこまで考えて、(よぎ)る、悠真のあの言葉。
 明日、定休日。ということは、遊びに行ってる可能性も、なきにしもあらず、なのでは?

『はい』
「っ、う、あ、お、俺! です!」

 てな具合にまで思考が沈んだところで、スピーカーからの応答。
 びくりと肩がはね、最初の音は喉で(つまず)き、何とか絞り出した言葉は一昔前の詐欺の手口みたいなものになってしまった。
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