婚約破棄されたので、森の奥で占いお宿をはじめます。
「セシリア、本当に行くのか?」

「ええ。迷いはないわ」


国境付近に到着して、ヴィンセントはまるで泣き出しそうな顔をした。ギュッと結ばれた唇は、必死になにかに耐えているようだ。


「セシリア、俺は……セシリアがアルフレッド殿下の婚約者になってしまったから……」

「ヴィンセント」


彼の気持ちには、気付いていなかったわけではない。
けれど、私にとってヴィンセントは気のおける友人。大切な幼馴染だ。親愛の気持ち以外のものは、どうしても抱けなかった。
もう会うことはないかもしれないけれど、その関係は壊したくない。



「ヴィンセント、ありがとう。またね」


友人に別れを告げて、私は国境を通り抜けた。














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