婚約破棄されたので、森の奥で占いお宿をはじめます。
さて、今夜を過ごす場所ぐらい確保しないと。

とりあえず、目についた店に入ることにした。


「いらっしゃい」


奥から現れたのは、30代ぐらいのおそらく人間の男性だった。彼は一目私を見ると、驚いた顔をした。
王太子の元婚約者だと気付かれたかもと、身構えてしまう。


「この時間に、この店に、若い女性が来るなんて、初めてだ」

よかった。私のことは知らないようだわ。

店内をざっと眺めてみれば、どうやら衣装屋のようだ。とはいっても、ドレスなんかじゃなくて、もっと実用的なものが並んでいる。

彼の話を聞けば、この先のサンミリガンは、土地によって雪の絶えない地域もあるのだとか。それを知らずに来てしまったグリージアの人達は、ここで防寒具を購入するらしい。
他にも、どんな季節にも対応できるよう、さまざまな衣類がかけられている。


「他にも、向こうには防具屋がある。獣人に馴染みの薄いグリージアのやつなんかが、初めて獣の姿のやつらに対面して、慌てていろいろ買って行くらしいぞ」

〝値段はぼったくりだけどな〟なんて笑い飛ばす彼に、思わず自分も笑っていた。





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